今日はすごいことを勉強させてもらいました。
Sensation and Perceptionの授業なんですけど、とんでもなく面白いビデオを見せてもらったんです。Univ. of California, San DiegoでPsychologyの教授もされてる、Dr.RamachandranっていうNeurosciencesのスペシャリストさんに関するビデオなんですけど、それはもう授業中に椅子からぶっとんじゃうかと思ったくらい面白かったです。
事故などで、手足を切断せざるを得ない患者さんというのは世の中に少なからずいます。
そういった患者さんに稀に見られるのが、amputationのあとに“切断した手(足)の感覚がまだ残っている”という症状。“なんかまだある感じ”程度ならまだいいですが、“その部位が痛む”となるとどうしたら良いのでしょう?無い手足を治療することは、もちろん出来ません。
こういった症状のことを、“
Phantom limb syndrome”というそうです。
定義としては、
feeling vivid presence of a missing limb。
実際に交通事故に遭って左腕を切断した患者さんがビデオに出てきたのですが、
彼は無いはずの左手が痛むのでDr. Ramachandranに診てもらうことになったそうです。
彼のcomplainは、時折左手がぎゅぅぅぅうっとcrunchしてしまって激しい痛みが出るというもの。
くどいようですが、もう左手は無いのですから、実際はcrunchも何もないわけです。
彼のcomplainはそれだけではありませんでした。ある日、髭剃りをしていて気がついたらしいのですが、顔の左側の髭を剃っていると左手に痛みが走るそうです。
Dr. Ramachandranがテストしてみても、やはり顔の左側を触る→左手に痛みが出る、という症状がはっきり確認されました。左顎にそってDr. Ramachandraがcotton swabを動かすと、同時に左腕に沿ってsensationが走るらしいのです。
これはどうしてでしょう?そして、どうtreatすればいいのでしょう?
ビデオを見ている私にはさっぱりわかりませんでした。
彼は痛み止めから何まで、一通り試したらしいのですが、何一つ効くものはありませんでした。
それも当然。問題は左手ではないからです。
無い筈の左手を作り上げている脳の仕業なのです。
この症状を説明するには、
まず脳の造りの話をしないといけません。
脳の違う部分が違う機能を司っている、
ということは皆さん当然のようにご存知かと思いますが、
←左の図をちょっと見てください。人の脳です。
えーと、左側が前方にあたるハズです。右が後方。
この図(↑)にあるように、motor-somatosensory cortexと呼ばれる特別な部分が脳の丁度中心あたりにあります。lobeで言うとfrontal(前頭葉)とparietal(頭頂葉)の中間です。
前方にあるのが
motor cortex。“動き”を司る神経が集まっている部分です。
早い話が、脳のこの部分を電極でエイヤっと刺激してやれば、体がばびょっと動く部分です。
後方にあるのが
somatosensory cortex。
“感覚”を司る部分で、ここに刺激を与えるとその部位が触られているように感じます。
両方とも、人が人として機能するのにとても大事な場所であることが分かるかと思います。
さて、それではsomatosensory cortexのほうをもっとクローズアップしてみましょう。
今度は右の図を見てください→
上の図のcortexの部分を輪切りにして
ぴょこっと取り出したものです。
脳のすぐ横に、沿うように頭やら手やら
気持ちの悪い人間が書いてありますが、
これは“この部位に受けた刺激は脳のここまで伝達される”というのを図解で示したものです。これを、Body map -
Homunculusと呼んだりもします。
良く見てもらうと分かると思うのですが、
このbody map、顔と手がすぐ隣り合わせになっていますよね。
ここから、Dr. Ramachandranはこういう結論を出しました。
Ground breaking theoryというものらしいのですが、
左手を失った患者さんは、この
手の部分のsomatosensory cortexに対する刺激が一切来なくなってしまいます。手が無いんですから、何も触れないし何の感覚もありませんよね。役目を失ってしまったこの部分の脳は新しい刺激を求めてhungryになり、すぐ隣の、
顔の感覚を司るパートが侵食してきてtake overされてしまうというわけです。つまり、
顔にsensationを与えた場合、そのシグナルは脳に伝達されてきて
顔と手両方の部分を刺激する結果になるというわけです。だから顔を触ったときに手にまで触られたような感覚が生まれたのです。
なるほど、理由は分かりましたが、
それじゃあcrunch & painの問題はどうやって解決すればいいのでしょう?
普通、健康な人が手を(無意識にであれ)crunchするときにはまず、
脳から手に“crunchしろ”と命令がいきます。そしてそれが余りに強すぎた場合、“ちょっとやりすぎ”“痛い”と
手から脳へfeedbackが行くのです。それによって脳は“crunchをやめよう”だったり“チカラを緩めよう”だったりというadjustmentが起こせるわけです。
左手が無い患者さんでは、このfeedbackがありません。なので、“やめよう”“痛い”という命令が脳に行きようがないわけで、結果としてcrunchし続けてしまい、痛みに発展するわけです。
じゃあ、
何とかしてこのfeedbackを作ればいい。という結論になりませんか?
人が頼ってるのは何も、sensory feedbackだけじゃありません。
それが使えないなら、他のものを使えばいいんです。
お粗末な手書き絵ですが、
Dr. RamachandranはこんなBox→を用意しました。
真ん中に鏡が立ててあって、
箱を丁度半分に分けています。
患者さんはそれぞれに両手を入れて、
鏡に映った右手を見つめながら
ゆっくり手を広げていきます。
こうすることで、脳に“手がゆっくり開いている”という
visual feedbackを与えるのです。
これによって脳は
左手が開いていくのと勘違いし、
脳にあったcrunchのimageを一掃することができる。
結果、痛みも取れるというわけです。
つまり、鏡に映った右手が失った左手の役割を果たしてくれるというからくりです。
これによって、患者さんの痛みはすっかり良くなりました。
今まで何も効かなかったのに、です。脳の思い込みのパワーってすごいですよね!
Phantom limb syndormeの他にも、Blind-sightとかVisual neglectとかCapqras delusionとか色んな患者さんのケースがあってどれも面白かったんですが、
書くスペースと時間がないので今日はこのへんでやめておきます(笑)。
脳の複雑さ、面白さを実感した一日でした。
うわー、こういう勉強はシビれるなぁ。