さて、間が空いてしまいましたが、肩のエクササイズの完結編をお送りしたいと思います。
前回までの内容を2文にまとめてみると、
肩関節は骨の構造から言って非常に不安定な球関節であり、脱臼しやすい傾向にある。
脱臼癖がつき、関節包・靭帯が伸びてしまった肩は、Rotator Cuffを鍛えて安定性を
回復する必要がある。ということです。
…なんでこれだけのこと言うのに2日もかかっちゃうんでしょうか。反省です。
さて、ではいよいよExerciseの紹介なのですが、実は肩の運動と一口に言っても
様々なものがあり、全てを紹介しようと思ったら一ヶ月かけたって足りないほど。
Isometric、Isotonic、Itokinetic、どのレベルが患者さんに合っているのか、
ROM(可動域)の回復に焦点を合わせるべきなのか、それともStrengthやEnduranceの向上が今最も必要なのか…ケースバイケースでやるべき運動は変わってくるんです。
でも、そんなことを書いていてもしょうがない!
今回のテーマはSelf-management of shoulder instabilityなので、
一人ででも簡単にできる、シンプルでやりやすくオールマイティな運動を紹介したいと思っています。
それは、Texas State UniversityでRotator Cuff等肩の怪我全般のリハビリに使われていた、“
PRICE Program”と呼ばれるエクササイズプログラム。
ビデオに運動が全て録画されていて、選手はそれを見ながら全く同じことをやればいいので、
私たちATの手間もかからず、且つ全ての運動をやれば肩周りの筋肉は満遍なく鍛えられるという、なかなか優れものののプログラムで、私も個人的に非常に気に入っています。
さすがにその映像を丸ごとインターネットで見つけることは出来ませんでしたが、
ひとつひとつbreak downして説明していきます。
1. Shoulder shrugs(←)
両肩で耳を挟むように、
肩甲骨を真っ直ぐ上に上げる。
2. Lateral Raises(→)
腕を両脇に沿って伸ばした状態から、
床に平行になるよう90度に上げて、
Holdする。このとき、
掌は下を向いているように。
3. Front Raises(←)
太ももに掌をつけ腕を伸ばした状態から
両腕を前方に90度まで上げ、Holdする。
掌は常に下向き。
4. Forward Shrug Rolls(→)
1の要領で肩を上げ、上腕骨頭を出来る
限り大きく動かしながら、肩を前周りに回す。
5. Diagonal Raises(←)
親指を下にした状態から、
腕をDiagonal(斜め)に90度まで上げ
Holdする。
6. Backward Shrud Rolls(→)
4の逆周り。
肩を後ろ周りに回す。
7. Lateral Rotation Raises(←)
2と同じ要領で腕を90度まで上げてHold。
ただし、腕を上げながら親指を上向きに回転させ、
上げきったときには掌が上を向いているようにする。
8. Cross Chest Raises(→)
肘を脇に固定した状態から屈折させ、
手で逆側の肩に触れる。左右交互に繰り返す。
9. Internal & External Rotation(←)
肘を脇にしっかり固定したまま、
上腕を軸に肘から下を動かして、内旋・外旋を繰り返す。
このとき、必ずNeutral position(中間地点)で
一時停止するようにする。
10. Horizontal Standing FLYS
(Palm down) (→)
腕を前方に90度上げた状態からスタート。
地面に水平に、両腕が直線になるまで
外転していく。このとき、掌は常に下向き。
11. Horizontal Standing FLYS (Up to Down)
10に同じ、ただし、今回はスタート時に掌を上に向けた状態から、
90度外転をした(両腕を開ききった)ときには掌が下を向いているよう回転を加える。
12. Horizontal Standing FLYS (to Up)
今度は11の逆。掌が下→上向き。
13. Side Pullups(←)
手を下に伸ばした状態から、
肘を曲げて脇の下に両手を引き上げ、Hold。
14. Bend Over Rolls(→)
上半身を90度に前方に曲げ、
両腕を真っ直ぐに下に伸ばした状態から、
肘を屈曲し、胸に両手を引き上げる。
15. Side Pull Up and Press(←)
13のSide pullupsと同じ要領で脇の下まで手を引き
上げ、そこから真っ直ぐ上に腕を伸ばす。
このとき、手の動く面はずっと地面に垂直であること。
(直線に真っ直ぐ上に引き上げ、真っ直ぐ上に伸ばす)
16. Standing Overhead
Lateral Press(→)
5のDiagonal raiseをして
腕を90度まで上げたあと、
そこから外転をして
肘が耳につくまで持ってくる。
17. Triceps Press(←)
肘を耳にくっつけて固定させ、
両肘を曲げて頭の後ろに両手を構える。
そのまま肘を伸展させていき、
完全に伸ばしきる。
18. Biceps Press(→)
掌を上に向けた状態で、腿に沿うように腕を伸ばす。
肘から下だけを動かして、両肘を屈曲させ、
限界まで曲げきる。
この18種類の運動を、それぞれ30秒間、ゆっくりと繰り返します。
動きの中で幾つかphaseのあるものは(例えばSide Pull Up and Pressだったら、
開始→脇、脇→頭上、頭上→脇、脇→開始という風に一連の動きを4つに分けることが出来ます)
それぞれのPhaseの終わりに一呼吸Holdすること。決して急がないで下さい。
先に言ったように、ビデオにお手本となる運動を録画して、それを見ながらやれればベストなのですが、それが無理なのであれば、運動のリストを目のつくところに置いておいて、
30秒ごとにアラームがなるように設定しておくか、
ストップウォッチか時計を目の前に置いてやってもいいですね。
何度もやれば、運動の順番は自然に覚えちゃうとは思いますが。
一度始めたら、休憩を入れずに流れるように終わりまで一気にやりましょう。
Ankle weightを付けたり、ダンベルを持ったり、それもなかったら水ボトルを持ったりして、
(TherabandはこのProgramに関しては非常に使いづらいかもしれません。Multi-planeだし)
自分に合うように負荷を設定してやってもらっていいのですが、それでも全てノンストップで続ければ9分にもなるこのExercise、何も使わなくても最後には結構肩が疲れてくるはずです。
姿勢や肩、肘の角度は特に注意してください。きっちり曲げきるか、90度に曲げきるか、
伸ばしきるかのどれかのハズです。30度に曲げる、とか、そんな中途半端な角度はないので、
自分の身体が今どれくらい曲がっているのか、意識しながらやりましょう。
鏡のあるところでやってもいいですし、パートナーにチェックしてもらうのも効果的です。
それからそれから。掌の向きが指定されているExerciseが多くあります。
これは、何でもないように見えて非常に重要ですので、各運動、指示通り行ってください。
●怖いから動かさない、では逆効果。
怖がって肩を上げないよう生活するようになると、肩はどんどんその機能を失ってしまいます。
まずは使われなくなった筋肉たちがatrophy(退化・萎縮)を起こしてチカラを失い、
更には関節包も縮こまってthickenedしてしまい、正常なfunctioningに必要な弾力性を失ってしまいます。分厚くなってしまった関節包は今までのように滑液を分泌することができず、
関節の中の滑液は少なくなって、関節面に送り込まれる栄養の量も減ってしまいます。
関節包はガチガチ、筋肉はひょろひょろ、関節面にある軟骨は栄養が行かずにぼろぼろ。
これがいわゆるお年寄りなんかに多い、Frozen Shoulder(凍結肩・五十肩)。
動かさないことで本当に肩が動かなくなってしまう、という現象です。
●Pain-Free
それを防ぐためにも、やっぱり普段から肩を動かすことがとっても大事なんです。
何十kgものダンベルをもりもり上げるような、いわゆる“筋トレ”をしなくても、
PRICE Programなどのようにゆっくりと大きく最大の可動域で肩を動かし、
筋肉、関節包、軟骨たちに適度に刺激を与えていれば、上のようなことは防げます。
ここでのキーワードは、
Pain-Free。
No-pain No-gainという言葉は完全な間違い。リハビリは、決して痛みを誘発するものであってはなりません。翌日筋肉痛で痛い、というのは適度な運動をしている証拠ですが、
もし運動中に明らかに筋肉痛ではない痛みを感じた場合、痛みが何日たっても消えない場合は、少し運動量を減らし、Take it easyで行きましょう。
●手術というオプション。
前回の更新で、伸びた関節包と靭帯を締めなおすには手術しかない、と書きましたが、私は、肩の脱臼癖に関して言えば、手術というオプションは決して悪いものではないと思っています。
少し前に肩のお医者様とお話しする機会があったのでこの話をしてみたのですが、
・
最初の脱臼の原因がCongenitalなものではなく、Traumaticである。
(つまり先天的な脱臼癖ではなく、怪我によって癖がついた)
・
スポーツをしていなくても、日常生活に影響があるほど症状がひどい。
(例えば、腕を上げるたびに肩が外れるとか、上げられるけれど痛みが出るとか、
不快感があって肩を上げることがそもそもできない、というのもこのうちに入ります)
この2つの条件に当てはまれば、手術をするべきである、と先生は仰っていました。
私もその先生も、一般的に手術はむしろ否定的なほうなのですが、(2人とも、手術よりも
運動療法等を通じて治療が出来るなら、そっちのほうが良い、というPhilosophyです)
この件に関しては例外的に、むしろ
手術がベストだ、と考えています。
先生は手術の成功率、改善率、そして満足度は100%。絶対に良くなる、と断言されていました。
なので、上の二つの条件に当てはまる方、無理にとは言いませんが、
手術という選択肢を一度ご検討されてみることをオススメします。
入院、それからリハビリ、と、もちろんやらなければいけないことはあるわけですけれど、
それを乗り越えた後は、もう今後恐怖感とは一切戦わなくて良いわけですし、
運動療法だけでは成し得ない、絶対的な安定感を得ることが出来はずです。
さて、今回も長くなっちゃいましたが、PRICE Programご理解いただけたでしょうか。
もし説明不足な運動があったら教えてください。更に解説します。
このご相談を頂いたご本人の状態ですと、不安感こそあれどROMは充分ありましたし、
この運動をすることは可能だと思ったんですが…。もしできないものなどあったら教えてください。
これ、私も一時期やってたんですけどね、結構、何もWeightつけなくても筋肉痛になったもんです。本当にVersatileで肩ならば何にでも使える優れたExercise Programです。
肩が健康だと思っている皆さんにも、筋バランスを整えるには適していますので、
是非一度皆さんお試し下さい!
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さて、いきなりですが、これでこのBlogでの更新を実質最後にしたいと思います。
明日からは、新Blogに移転して、気分新たに始めたいと思います!
新しいURLはここでお知らせしますのでご心配なく。
2年と4ヶ月ほど、このThree Drinks Behindにお付き合い頂きありがとうございました。
リンクしていただいている方、明日改めてご連絡させていただきます。
それでは皆様、良い週末を。